点検等でバッテリーの交換をすすめることがありますが、バッテリーが上がってしまっているわけでもないので、『まだ大丈夫なのでは?』『充電すればまだ使えるのでは?』という質問をよくされます。整備士としては、バッテリーが上がる危険性を説明しますが、最終的に交換するかどうかを決めるのはお客様です。今回は、そのようなときに役立つバッテリーの寿命を見極めるための知識を紹介していきます。
この記事の目次
バッテリーの寿命について
バッテリーの寿命は2~4年といわれています。
間違えてはいけないのが、バッテリー上がりと寿命の違いです。
バッテリー上がりとは、充電する量よりも使用量が多いことで充電不足となり、電気容量が低下することでバッテリー上がりがおこります。
バッテリーの寿命とは、充放電の繰り返しにより電気容量が低下することでバッテリー本来の機能をはたせなくなることです。それによってバッテリー上がりがおこります。
『バッテリーいつまで使えるの?』と聞かれることがよくありますが、点検により良否判定をすることはできますが、寿命がいつくるのかを判定することはプロでも容易なことではありません。
その例として、始動電圧・比重は全く問題なかった場合でも、使用期間が長かったため急に上がってしまったこともあります。
逆に始動電圧・比重・使用年数すべてが要交換の内容だったが、その後バッテリーが上がったのは1年後だった。
といったように、急に寿命がくるバッテリーもあれば、予想をはるかに上回る頑張りをみせるバッテリーもあります。
消耗品の中では高額な商品になるためバッテリーの交換を悩まれる方がほとんどですが、しっかり知識をつけて自分の判断で交換時期を決定できるようにしましょう。
バッテリーの良否判定方法
さまざまな点検内容から寿命を判断できるようにできる限りの方法を紹介します。
注意して頂きたいのは、要交換の内容でもバッテリー上がりの場合は充電をすることで良好になることがあります。
ひとつの点検項目だけで判断するのではなく、複数の点検を組み合わせることで正確な良否判定ができるようにしましょう。
始動電圧点検
エンジンを始動するためにはスターターモーター(セルモーター)を回すための大きな電流が必要になりますが、バッテリーには流れる電流が大きくなると性能が低下するという特性があります。これはバッテリーの内部抵抗によるもので、始動時にはバッテリーの電圧が低下します。また、バッテリーの内部抵抗は劣化することで増加するため、劣化にともなってエンジン始動時の電圧降下が大きくなっていき、バッテリー始動時の電圧が低くなっていきます。このように始動電圧点検はバッテリーの特性を使った点検となります。
点検方法は、エンジンを始動した時のバッテリーの電圧を3回点検し、一番電圧が低かった値で良否判定をします。
≪良否判定≫
9.6V以上で良好
9.0~9.5Vは注意
9.0V以下は要交換
ハイブリッド車の点検方法は?
ハイブリッド車はエンジンの始動をハイブリッドバッテリーで行っているため、電圧降下による測定ができません。そのため、補機バッテリーの電圧により点検を行います。
点検方法は、イグニッションをOFF(エンジン停止)にした状態でハイビームを30秒ほどつけたあとに補機バッテリーの電圧の点検をします。
≪良否判定≫
12.5V以上で良好
12.0~12.5Vは注意
12.0V以下は要交換
比重点検
バッテリー液の密度を調べることでバッテリーに電気がとれだけたくわえられているかを知ることができます。バッテリーが満充電状態での比重は1.28になりますが、液量が適切でなければ正確な比重を測定したことにはらないので注意が必要です。
≪良否判定≫
1.25以上で良好
(1.28を上回る場合は過充電やバッテリー液不足の可能性もあるため注意)
1.20~1.25は注意
1.20以下は要交換
各セルの比重差が0.04以内で良好判定
(バッテリー内部は6つの部屋にわかれており、その部屋のことをセルといいます)
メンテナンスフリーバッテリーの場合
メンテナンスフリーバッテリーとは、バッテリー液の比重の測定・補充ができないものです。
比重の状態を点検することができるインジケーターがあるものはそこで確認してください。
≪注意≫
バッテリー内部の液体は希硫酸です。
希硫酸は硫酸の濃度が低いものですが、車のボディー・衣類・皮膚に付着すると害を及ぼす液体です。
経験談として、比重測定をする際に、誤ってツナギに付着したことがあります。そのまま放置したのがいけなかったのもありますが、その部分がボロボロになって穴が開いてしまいました。取扱には十分に注意をしてください。
使用年数
バッテリーの使用年数により良否判定をします。
ステッカー等で点検をします。もしも、交換した時の取り付け日がわからない場合は製造年月日からどれだけたっているのかを確認しましょう。製造年月日の確認方法は、バッテリー上面に書かれた数字をみてください。後ろから年・月・日となっています。
(製造年月日が記載されていないものもあります)
≪良否判定≫
2年以内の場合
基本的には良好判断です
しかし、バッテリーの点検結果が悪かった場合
比重・始動電圧の値が悪い場合でも、使用年数が2年以内であれば充電することである程度の回復を見込むこともできるため充電してから良否判定をする。
早期のバッテリー上がりは、バッテリーが不良品の可能性があります。保証で新品に交換してもらえる可能性もあるため、購入したお店で点検をしてもらうようにしましょう。
走行距離が少ないことによる充電不足、充電系統の異常、暗電流の過大など、バッテリー以外に異常がある可能性も疑う必要があります。
≪暗電流とは≫
暗電流とは、車を使っていない時に消費される電気のことです。車はバックアップ電源といって、時計やオーディオ等などの設定を記憶しておくために電気を消費しています。暗電流の良否判定は、100mA以下が正常です。
使用年数が2~4年の場合
その他の点検方法を含めて総合的に良否判定
使用年数が4年を超える場合
比重・始動電圧の値がよくてもバッテリーの寿命といわれる2~4年を超えているため交換をおすすめします。
しかし、8年間バッテリーが上がらなかった場合もあったりと、バッテリーのメンテナンス状況・使用状況・性能ランク・メーカーなどにより寿命の差が大きくあることも忘れないようにしましょう。
バッテリー液量
バッテリー液量がLOWER LEVEL(下限)からUPPER LEVEL(上限)の間にあるのかを点検します。
(バッテリー液はUPPER LEVEL(上限)の位置にあるのが正常です)
バッテリー液は、硫酸と蒸留水の混合液である希硫酸です。
≪蒸留水とは≫
蒸留水とは、不純物を含まない水のことです
バッテリー液は電気分解と自然蒸発によって水の成分が徐々に減っていきます。
バッテリー液の不足により、バッテリー内部の極板が露出すると、露出した部分は化学反応ができなくなるため能力が低下し寿命を縮めてしまいます。また、バッテリー液量が減った状態では適切な比重の測定もできないためしっかりと点検をしましょう。
バッテリーを入れすぎてしまった時は、抜き取ることをおすすめします。
理由は、バッテリー周りのボディーがバッテリー液の硫酸によりサビが発生します。バッテリーが充電されるときには電気分解によりガスが発生します。ガスが抜ける穴がありますが、バッテリー液が多い場合は、ガスと一緒にバッテリー液も排出されてしまうためバッテリー液の入れすぎには注意しましょう。
≪良否判定≫
UPPER LEVEL(上限)は良好
LOWER LEVEL(下限)からUPPER LEVEL(上限)の間は良好だが上限まで補充が最適
LOWER LEVEL(下限)は要補充
(極板が露出している状態ならば能力が低下しており、バッテリー液の補充をしても回復しない可能性が高い)
UPPER LEVEL(上限)を超えている場合は上限まで抜き取りが必要
バッテリー液の色
バッテリー液の正常なものは無色透明です。
バッテリーが劣化してくると、極板がボロボロになり部分的な脱落が始まります。その脱落したものがバッテリー液のにごりや、バッテリーの内部の汚れになります。
バッテリーチェッカー
バッテリーチェッカーという機械が、バッテリーの診断をして良否判定をします。
≪注意すること≫
ガソリンスタンドで、『バッテリーが弱くなってきいるから交換した方がいいとすすめられたけど』と知り合いからの相談。
電圧降下の値は?比重は?バッテリー古いの?と質問しても点検をした人は答えられなかったのです。
なぜなら、バッテリーチェッカーのみの点検で、その結果が要交換と表示されていたからとのことで・・・。
もう一度確認をしてもらうと、バッテリーチェッカーの診断結果が良好に!!!
このカラクリは接触抵抗です。
バッテリーチェッカーはバッテリーの端子にターミナルでつなぎます。しかし、端子やターミナルのサビや汚れ等により、しっかりつながっていなかった場合、そのつなぎ目が抵抗になってしまい電気が流れにくくなってしまいます。その結果、バッテリーが弱くなってきていると判断されてしまいます。
もうひとつの注意点は、バッテリーチェッカーの種類にもよりますが、使用しているバッテリーによって設定を変更する必要があり、設定が間違っていれば正確な点検をすることができません。
そのため、バッテリーチェッカーだけでの良否判定は信頼できない可能性もあるためしっかり点検してもらいましょう。
点検方法まとめ
様々な点検方法を紹介しましたが点検項目が多すぎて、どの点検項目を優先すればいいのかわからないでしょう。
重要項目ごとにまとめましたので参考にしてください。
1、使用年数の確認
新しければまだ大丈夫そうで、古ければ寿命が近づいているため点検・交換の必要があると判断
2、始動電圧の点検
良好であればバッテリーの内部抵抗が増加していないので、劣化が進んでいないといえる
3、比重の点検
良好であれば充電はしっかりされているといえる
4、バッテリー液量
良好であれば比重の良否判定は正確であるといえる
5、バッテリー液の色
極板の脱落がなく劣化が進んでないといえる